第62回教育版画コンクールの審査講評です。受賞者一覧はこちらから見れます。https://corp.ryukyushimpo.jp/news/posts/E5G200fT4・5歳児の部 今年は個人と共同合わせて243点の出品がありました。幼児の版遊びは,紙に「うつった!!」と感動する体験から「面白い,もっとやってみよう」と繰り返し遊ぶ時期を経て、イメージしたものを見立てて表現していく活動へと変化していきます。今回の審査では「自ら身近な素材や環境に関わっているか」「繰り返し版遊びを楽しんでいるか」「自分の感性や力で表現されているか」「写りが明確であるか」という視点で進めていきました。入賞した作品は,自然物や廃材などの身近な素材を版にしてカラーで表現された作品が多く、表現したい思いが素直に、ダイナミックに現れており,写ったことを感動する姿やその姿に共感する保育者の様子が伝わってきました。課題としては、絵の具の濃度と紙との相性を教材研究で確かめていくことや,幼児一人一人の表したい思いを対話を通して引き出していく援助の工夫が挙げられました。保育者は、幼児が身近な環境へ関わり、繰り返し遊びを楽しめる「環境」を共に見出していき、遊びの中でたくさん自己決定しながら表現する楽しさを味わえるようにしていくことが大切だと考えます。 今後も幼児らしい直な作品に出会えることを期待しています。 沖縄県造形教育連盟 幼稚園部小学校の部1年生 一年生では、ローラーやスタンプ押し、版を作って写すなど、いろいろな技法を組み合わせた作品が多く見られました。ほかにも、型紙を作って写した作品もあり、どちらの作品も子ども達が想像を膨らませながら表すことを楽しんでいる様子が伝わってきました。写した形や色から面白さを見つけ、想像を膨らませて生き物や建物を表現した作品もあれば、自分の表したいものを表現するために写し方や色、形などを工夫している作品もありました。洗濯ばさみや葉っぱなど身近にあるいろいろな材料を使って、版遊びを楽しみながら工夫して作品づくりをしている印象を受けました。インクや絵の具の写りもきれいに刷られているものが多かったです。今後も、版遊びの楽しさを味わいながら、想像したことをのびのびと表現してほしいです。 仲西小学校 加島 そのえ2年生 2年生の子どもたちが「体験したこと」や「季節の行事や遊び」、「自分の好きなこと」や「楽しかったこと」、さらには「空想の世界」までを多彩に表現し、楽しく取り組んだ様子が生き生きと伝わる作品が多数見られました。なかでも特選作品には、タックカラーを中心としたものにステンシルや野菜スタンプ、身近な生活用品を使った技法が巧みに取り入れられており、指スタンプを使った工夫も目を引きました。それぞれの作品が個性的で、主題がはっきりしている作品が特に印象的でした。 一方で、集団で同じ型紙を使用した作品では、表情や動きが似通ってしまい、個性が出づらいと感じられる部分もありました。また、版画としての表現よりも描き込みが多く、版表現が弱くなってしまった作品や、写りが薄くはっきりしない作品も見受けられました。 紙版画制作は、紙を切ったり貼り重ねたりしながら表したいことを版に表す、楽しく取り組める活動です。これからも、子どもたち一人一人の思いを大切にしながら、自由で創造的な表現を楽しむ姿勢を育んでほしいと感じます。どの作品からも未来への可能性を感じられる素晴らしいコンクールでした。 伊豆味小学校 喜屋武 尚3年生 3年生の作品は、体験したことや空想の世界、生きものの世界などを題材とした作品が多く見られ、白黒版画やカラ-版画など色々な版画で表現されていました。色々な素材を使って版を作ったり、作った版を繰り返し使って動きのある構図や広がりのある構図など工夫したりして楽しんで取り組む様子が伝わってきました。また、線の描写にも太い線。細い線。点描、曲線などを工夫した作品も多く見られました。 一方、同じような型を使った作品や刷りの段階でインクが濃すぎたり薄かったり、水分が多く作品がぼやけてしまったりと、児童の思いが十分に表現しきれていない作品が見られました。 今後の取り組みとして、児童の思いに合った版づくりや最適な材料を選び組み合わせる方法を取り入れるなど、最後までで丁寧に仕上げるよう心がけてほしいと思います。さらに、今後も児童が自分の世界を表現する楽しさや喜びを感じることができるよう支援してほしいと思います。 南風原小学校 玉城 恵4年生 4年生は初めての木版画の取り組みになりますが、単色版画に加え色鮮やかな彩色版画、一版多色版画など多様な表現方法があり、楽しく審査することができました。 良かった点は、彫刻刀の種類のそれぞれの刃の良さを活かし、表したいことに合わせて使い分けている作品が多くありました。また、上位に入賞した作品は、表したい主題が伝わり自由な発想で4年生らしく生き生きと表現できていました。 一方、改善点としては、技巧や構図が学級単位で統一されたものが何点か見られました。児童の構想を膨らませ自由な発想で表現させる工夫をすることで、今後の版画制作や図画工作の作品作りに繋がると思うので、主題設定の段階から児童の思いを大事に作品作りを行って欲しいです。 来年、さらに磨きのかかった素晴らしい作品に出会えることを楽しみにしています。 与那原東小学校 室根 広菜5年生 5年生は彫刻刀を使っての版表現が2年目になることもあり、線彫りや面彫りを工夫して、人物の表情や動きを丁寧に彫り込んでいるのが印象的でした。 特選・優秀賞の作品では、人物と背景の効果を考えた構図、彫刻刀の特徴を生かした彫りの工夫やムラのない刷りなど、丁寧な作品も数多く見られました。 家庭生活、学校行事、地域行事での体験場面を表現した作品が多く、特に数人の人物が重なる構図では手足や目の動きなどを工夫し、躍動感あふれる生き生きとした作品が目立ちました。 課題としては、時間的な制約からか安易に多色版画や市販のステンシル版画にとびつき、構図や刷りで残念な結果になってしまったり、主題や「表現したい思い」が何なのかよく分からない作品も多く見受けられました。 題材決め・下絵・彫り・刷りの工程を試行錯誤して楽しみながら表現するのが版表現。教科書を参考に発達段階に合った作品づくりで子供の表現したい思いを引き出し、子供の主体的な表現活動になるように個々に寄り添った指導をお願いいたします。 田場小学校 豊田 達雄6年生 作品のテーマは、身近な生活の中での喜びや頑張っている姿、地域行事,学校生活、好きな動物などと多岐にわたりました。 6年生らしかったのは、背景をしっかり描写し、自分の一番表現したい角度からの構図で表せていたところです。上級生らしく繊細にかつダイナミックな彫りが印象的でした。5本の彫刻刀を効果的に使用して、表情や躍動感を表現できた作品は上位に受賞しています。特に今年度は、白と黒のバランスに気を使って刷っていた白黒版画によい作品が見られました。残念だったのは、多色刷りの刷りの段階で水加減をうまく調整できず輪郭がはっきりしなかったり、発色が不十分だった点です。刷りに入る前に事前指導がある程度必要かなと感じています。あと、時間不足で最後まで彫り切れていない作品もありました。 指導者と一緒になって頑張ってほしい点は、限られた時間の中で難しいと思いますが、各自が自分の個性を出した作品になるように導入指導をすることです。表現したいテーマと構図が決まったら、過去の作品や図工科教科書などのを鑑賞してから彫りに入る指導を期待したいです。柔らかい部分・固い部分・滑らかな部分などを、どの彫刻刀を使いどの向きに彫り表現するかが高学年の醍醐味なので少しの声掛けで頑張ることでしょう。難しい課題とは思いますが取り組むことで児童の満足感を生むと思います。 次年度も素晴らしい作品に出合えることを楽しみにしています。 大里北小学校 森田 敏文 中学・高校の部 本年度の作品は中学・高校共に、ステンシルやドライポイント、一版多色版画、シルクスクリーンと多様な版画の表現が見られ、楽しく審査することができた。中学生の部では、様々な彫刻刀を使い分け、奥行きや質感、色彩などを表現しており、彫りの深さや線の強弱など、授業で学んだ技法を活かした作品が多くみられ、各学校での丁寧な指導の様子が作品に表れていると感じた。さらに高校生の作品は、中学校での学びを活かし、より高度でデザイン性に特化した作品が多くみられた。上位の賞に入選した作品は学校行事や家庭での出来事をテーマに人物の表情を豊かに表現しており、絵画から声が聞こえてくるような作品が多く入選していた。 今後も本コンクールを通して、版画表現の楽しさに親しんで欲しいと願う。 琉球大学教育学部附属中学校 大川 晃特別支援学校の部 今年も、版画の幅広い可能性を感じる作品が多く、小学生から高校生のみなさんが、表したいテーマを、主に凹版、凸版、孔版の技法を生かし表現していて、色鮮やかな多色刷り作品や力強い単色刷り作品など、刷りという工程を経て現れる表現の魅力を感じられました。 人物の筋肉やほほの丸みを意識して彫刻刀を彫り進めたであろう様子がうかがえる作品、季節の自然素材を使って自由に抽象的に表現した作品、共同作品による迫力など、作品の中からドラマが垣間見られ、ひとつひとつ作品を見るたびに驚きがありました。 また、各学校で作風やテーマがあったり、児童生徒が大好きなものを主題としていたり、教師の工夫やねらいが伝わりました。作品によっては台紙への貼り方を変えるとより良くなる作品もあったため、見せ方も、数多い版画工程のひとつであると思いました。 これからも、子どもの個性や表現の幅を大切にした版画ならではの作品を楽しみにしています。 美咲特別支援学校 和多野 千帆